ドイツの病院について、過去のブログより〜救急外来を受診した話

ドイツの病院の救急外来を受診
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16年前、ドイツで救急外来を受診しました。

ドイツ留学中のある一時期、私は無料のブログサービスを利用してブログを書いていました。それ自体はもう消してしまったのですが、文面のコピーを手元に残しています。

ここに、あの日の記録をそのまま公開したいと思います。

結局、どこも何も大したことはなかったわけで、むしろ、そんなことで救急外来に行ったの?と思われても仕方がないのですが、当時の自分は、突如として現れた原因不明の症状に恐怖をおぼえ、ただただ必死でした。

文体が今とあまりに違いすぎるという点に関しては、20代の若輩者が書いたものなのでドン引きしてください、いや、目を瞑ってやってください。

ドイツの病院、救急外来がどのような感じなのかが伝わりましたら幸いです。

目次

たのしいびょういん (2009年4月投稿のブログ記事)

その日あたしは友達とパン屋でケーキを食べおしゃべりを満喫した後、一緒に歩いて市の図書館へ向かった。

建物に入ってすぐのことだった。
突然、顔面の右側に違和感。
鞄から鏡を取り出して、見てみる。
蚊に刺されたようだ。腫れている。
ま、よくあることだよねと思い、
「もー。蚊に刺されちったよ~。ホラ、ここ」
なんて友達に見せた。

その一分後、
左目の上に違和感。
また!?とうんざりし、鏡で見ると、水ぶくれのようになっている。
蚊じゃないかも。
もっと毒性の強い虫がこの辺に潜んでるのかな…
やだなぁ二個所も。

その三分後、シカトしきれない強烈な痒みを感じて
またもや鏡を取り出した。
「!!!」
目の上がまん丸く膨れている。
キモい。
いや、目の上にまず気を取られてしまったが、いつの間にか額にも虫刺されができていた。
あたしは、たまらずトイレに駆け込んだ。
ティッシュを水で濡らし、目の上を冷やした。
友達が心配そうに付いてきた。
濡らしたくらいじゃ良くなるわけない、でも何かせずにはいられないし、今できることはこれくらいしか思いつかない。
「虫刺されだったら、放っとけば治るんじゃない?」友達の問いかけに
あたしは生返事でうんそうだねと言いながら、
これは虫刺されじゃないかも、と寒気を感じ始めていた。
狭いトイレにはひっきりなしに人が入ってくる。
落ち着いて顔を冷やすこともできやしない。苛立ちがつのる。

ここには人が入っているのですか?あなたは並んでいるのですか?
個室を指差しながら訊いてくる女性。
ええい、こっちは緊急事態なんだよ見て察してくれ。
顔面の痒さのせいでイライラが増幅し、あたしはトイレを飛び出た。

図書館を出るころには酷さを増していた。
顔中に何十か所も、くっきりとボコボコした腫れものができている。
醜い。
左の上瞼は眼球に被さる程になっていた。視界が悪い。
これから学校に用事があったあたしは、それを諦めて病院に行くことにした。

「これちょっとまずいかも…学校行かないで病院に行くね」
友達に言うと、
「どれ、ちょっと見せて」
と足を止め、通りの真ん中でまじまじと見つめられた。
やめて…立ち止まりたくない…人に見られるじゃん…
心配してくれるのは嬉しいけどさ…分かってるんだけどさ…
「うーん。今日食べた物に当たったとは思えないし、図書館の中に虫がいたとも思えないし、一体どうしたんだろうね」
分かんない、なんか怖いよ、こんなに急に顔全体がこんなになるなんて、しかも顔だよ、顔面の皮膚だよ、どうすればいいの。

夕食の買い出しに行くという友達と別れ、あたしはひとりバス停へ急いだ。
髪の毛をバサバサさせて、少しでも顔が隠れるようにした。
大家さんに電話をし、病院の場所を聞いた。
時刻は夕方。もうどこも開いていないだろうと言われ、救急外来のある大きな病院を教えてもらった。
しかし、大家さんも大まかな場所しか知らないという。
取り合えずその場所までバスで行き、一番最初に目についた、開店間近といった感じのバーに入った。

「すみません、○○通りはどこですか?」
カウンターのおにーさん、あたしの顔を見てぎょっと眼を見開いた。
「ここをまっすぐ行って、今あの赤い車が止まっているとこを右だよ。病院に行きたいの?病院はちょっと離れてるから、そこのバス停で20番か25番のバスに乗って三つ目で降りればすぐだ」
「ありがとう」

病院行きだとすぐ判断されてしまうこの顔面で歩いてるのが恥ずかしかった。赤く腫れた大小無数の丸印がはっきりと見て取れる。すれ違う人が皆ジロジロ見てるような気がした。こんな思いは二度と御免だ、っていうかもし治らなかったら?毎日マスクして出かけなきゃいけない?っていうかあたし、人より肌が弱くて、10年間毎日毎日毎日毎日食べ物とか化粧品とか化粧の仕方に気を付けてきて、やっと人並みの皮膚に落ち着いてきて、それなのに今またこんな思いしなきゃいけないの?

救急外来に着いた。
顔の表面温度がますます上がっている気がした。
受付で症状を言って、10ユーロを前払いした。
その日に限ってあたしはドイツ語の辞書を持ち歩いていなかった。
医師の言ってることが分かるだろうか、自分の症状なら説明できる、でも医学用語を持ち出されたらお終いだ、もうどうにでもなれ。

自分の順番が来た。
「こんにちは、看護師の○○です」
赤毛のかっこいい年配の女性が握手を求めてきた。
そうだったそうだった、ドイツの病院ではまず最初に名前と握手、だったなぁ…と少し落ち着きを取り戻したあたしは、微笑みを作り手を差し出した。
「で、どうしたのですか?」
「5時頃、突然顔が赤くなって、熱くなって…。始めは一か所だけだったんです。蚊だと思いました。でも、すぐにたくさん…」
なぜかこの時、「かゆい」という単語を思い出せなかった。とりあえず、かんたんなドイツ語でまくし立てた。
「赤い?とっても普通に見えるわよ」
「いいえ!!いつもは白いんです!!!!」
あたしは(ちゃんと見てよ!トシのせいで見えづらいとは言わせないわよ!)と抗議した。心の中で。

ベッドに寝かされ、血圧を計られた。
「血圧が高いわね、興奮してる?」
うん。してる。この顔が治らないんじゃないかってドキドキしてる。ついでに今自分がドイツの救急外来にいるってことだけで実はすっげえドキドキしてる。
その後、血液を取られた。
採血はヘーキなあたしなのだった。
血を抜かれ終わるころには何故かすごく気分が落ち着いていた。

「ドクターに呼ばれるまで、待合室で待っててね」
あたしは、今日はせっかくオシャレしてきたのに病院で夜を過ごすのかぁ、とかなり余裕を取り戻した頭で考えつつ、椅子に座った。
なんだかもう、どうしようあたしどうなっちゃうの、と不安な気持ちが大きくなりすぎてパーンと破裂して、あっもうどうでもいいや…治る時は治るし、運が悪けりゃ治らないし。という「極限の緊張に耐えきれずそれ以上の思考を脳が拒否・そして全身脱力」みたいな状態になってリラックスできていた。
ここじゃやることもないし、観察でもするかな。

あ、ドイツの救急車って蛍光オレンジなんだよね。派手だな。
おっ!イケメン看護師がいるね。
この建物って、青色のアクセントがいたるところにあって、近代的でいい感じだな。
病院ぽくない。

またあたしの番がやってきた。
現れたのは可愛らしいお医者さん。
どうやらあたしは、じんましんになったらしいということを聞かされた。
じんましんは、約3割の人が経験するそうだ。
「今から薬を飲んでもらいます。1時間後に様子を見てみましょう」
そう言われて、
コレしかないのよーゴメンね☆と、コップに入った水道水を渡された。
さらに1時間後。
顔は、赤からピンクになっていた。右半分は、いつもの色に限りなく近づいていた。ほっと一安心。

もう一度診察室に入り、明日飲む薬を渡しますね、ちょっと待っててね、とドクターが部屋を後にした30秒後のことだった。
「ハロー、シューネンタ~ク♪」
陽気な声とともに
バーン!!!
と、ドアが開き、
金髪で顔と耳にピアスがグサグサ刺さり、
腕一面が刺青で覆われた兄ちゃんが、
煙草のにおいをまき散らしながら、
こちらにズンズン近寄ってきて、
手を差し出してきたのだった。

診察室のベッドの上に座っていたあたしは、
ギャー、襲われる!
と一瞬硬直してしまったけど、
よーく見りゃその人は、看護師さんの青い制服を着ていたのでした。
日本じゃ、まず見ないね。
自由の国、ドイツ。
例え医療現場でも、自分のしたいファッションで働ける…
それが普通。いいことだとは思う。
中身が大事だものね。
とりあえずあたしも手を出し、訳が分かんないけど刺青兄ちゃんと握手した。
彼は、何かの器具を取りにこの部屋に来ただけらしい。
ほどなくしてドクターが戻ってきて、一日分の薬をあたしにくれた。

結局どうしてじんましんになったかは、聞いてもわからずじまい。
アレルギーでもないでしょうね、と言われた。
その日食べたケーキが悪かったとも思えない。
ま、じんましんというものは原因の特定できない病気らしいから、仕方無いや。
っていうか、じんましんってあんなに沢山できるものなんだ…一つ一つは虫刺されにそっくり。今まで一度も罹ったことがなかったから、全然分からなかった。

ドイツで救急外来に掛かるとは予想もしてなかったけど、一つの珍しい経験にはなった。
途中から肝が据わっちゃってたしなぁ自分。

あんまり次があるとは考えたくないけど、もしいつか具合が悪くなっても、この病院なら来てもいいかな。って思った。
清潔で広々としてて近代的で、看護師や医師がフレンドリーで。
おまけに辞書が無くても何とかなることが分かったし、安心しましたわ(笑)

じんましんって、後でネットで調べてみたら、ストレスが原因でなることも多いみたいね。
皆様、どうぞ、じんましんにはお気を付けて♡

(2009年4月、当時のブログへ投稿)

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この記事を書いた人

ピアノの演奏と指導を生業としている二児の母。
ドイツに4年間の在住経験あり。
ピアノのコンサート歴19年、指導歴12年。
日本国内の音楽大学を経て研究生修了後、渡独。
ドイツの国立音楽大学を経て大学院修了後、帰国。
出会って心が動かされたもの・ことの記憶って宝物だよね、自分にとっての宝物がどんどん増えていったら幸せだよね、それを沢山の人とシェアできたら楽しいよね。と思っているので、ブログのタイトルを【タカラモノさがし】にしました。

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