セルビア第二の都市、ノヴィ・サド。
実際に行ってみて、このような印象を受けました。
ミステリアス
モノトーンが似合う
油絵で描かれたらどんなにか美しかろう
現地で撮影した、特にお気に入りの3枚がこちらです。



それでは、ノヴィ・サドの旅の思い出をお読みください。
(2010年の出来事を書いています)

旅の始まりは、不穏
「スーツケースは白で、ベルトは黒で…」
セルビアはベオグラードの空港に到着した私は、空港職員に、自分の荷物の特徴を必死に伝えていました。
そう、ロストバゲージに遭ってしまったのです。
英語で状況を説明したのですが、時折り、あからさまに目を逸らされてしまいます。
話がしっかり通じている感じが全くせず、不安と苛立ちが募るばかりでした。

あー。私のスーツケース、もう戻ってこないかもな。
絶望しながらも様々な手続きを終え、何とかノヴィ・サドのホテルまで辿り着いた私を、衝撃的な出来事が待ち受けていました。


ノヴィ・サドに来た理由と、衝撃の出来事①
当時私はドイツの音楽大学で学生をしており、ノヴィ・サドに単身、ピアノのコンクールを受けに来たのでした。
市内のホテルでは、コンクールのスタッフが待ってくれていたのですが、このスタッフとの出会いが、スーツケースを失い長旅で疲れ切りズタボロ状態だった自分に、衝撃を与えたのです。
眼鏡をかけ髪を無造作にひとつにまとめ、黒いセーターに黒いパンツという極めてシンプルで飾り気のない出で立ちをしたその女性が
美人すぎる
そう、とにかく
美人すぎる


セルビアに来て早々、セルビアの底力を目の当たりにした。
セルビア美女すごい。



びっくりしすぎて、一瞬、自分が今置かれている状況とか諸々の不安を全部忘れたよ…。
年齢が自分とそれほど変わらないであろう彼女に、ただただ畏敬の念を抱くのみでした。
その眼鏡の彼女、私がロストバゲージに遭ったと聞くと、親切なことに、一緒に街中にショッピングに行ってくれたのです。
彼女に助けられて必要なものを買い、ホテルに戻った私を、しかし今度は、想像すらしていなかった全然別の衝撃が襲ったのでした。
ノヴィ・サドのホテルでの、衝撃の出来事②
ホテルの部屋の蛇口から黄緑色っぽい水が出てくる。朝食のパンは石鹸のにおいがする。コーヒーはどろどろで泥のよう。
なんて所に来てしまったんだろう。
ノヴィ・サドに到着して半日の時点で、この都市に対する自分の評価は、もはや地の底まで落ちました。
そして、スーツケースの件がメンタルに影響したかしなかったかは分かりませんが、私はコンクールで早々と落選してしまったのです。
いや、そういうことを言うものじゃないですね。
ロストバゲージは関係ないです!
実力が足りなかったんです!
仕方がないので、ノヴィ・サドの観光をすることにしたのでした。



気持ちの切り替え、大事ですよね。


ノヴィ・サドの観光名所、ペトロヴァラディン要塞
知らない街をぶらつくのが大好きなので、有名なペトロヴァラディン要塞にだけは絶対に行くと決めて、他は特に目的地を定めずに歩くことにしました。
要塞。それまでの自分の人生でおよそ出てくることのなかった単語。
すごく惹かれます。
ペトロヴァラディン要塞の近くまで来ると、このような街並みを見られます。


ああ、絵になるな。
埃っぽささえ丁度良く感じられました。
この辺りから、私のノヴィ・サドに対しての印象は、少しずつ少しずつ良くなっていくのでした。
◇



要塞を目指して道を登っていく間、人とすれ違うことはほとんどなく、物語のなかに入り込んだような感覚を味わうことができました。






◇
私がノヴィ・サドにいた数日間、空はほとんどいつも雲に覆われていたので、写真に映るノヴィ・サドも曇り空ばかり。
青空の下でキラキラと輝かんばかりのこの観光名所を、ぜひご覧になっていただきたいです。
ノヴィ・サド市内中心部にある、セルビア正教会の聖ジョージ大聖堂
セルビア正教会の聖ジョージ大聖堂(Saint George Cathedral)を見つけました。
外観はこうなっています。


中に入ると、しん、と静かで荘厳な空気。



この場所に来ることができて幸せだと思いました。






意味ありげだけど、穏やかな街


ノヴィ・サドでは、大都市ではない都市ならではの穏やかさと治安の良さを感じました。
これは、平穏な街中で突如として目の前に現れた、不気味とも言える壁画。


枯れ木と妙にマッチして見え、強烈な印象とともに記憶に残りました。
市の中心部を離れていくと、どうしてなのか、壊れたままの建物がたくさんありました。



うす明るい曇り空の下、それらを目にしながら淡々と歩き続けるのは、何か不思議な経験でした。
◇
再び市内中心部。夜のノヴィ・サドも綺麗です。


昼と夜で違う表情を見せてくれる、しかしいつでも落ち着いたトーンの街なのでした。
かわいいもの、見つけたよ



初めて訪れる地では特にそうだけど、旅をしている時って常に薄く緊張感が付き纏っているものだなあ、と。
そんな中、ノヴィ・サドでも、偶然出会ったかわいいものたちに癒してもらう瞬間がいくつもありました。






道中、意外に役立ったこと
当時、私はスマホを持っておらず携帯ユーザーだったので、頼りになったのは自宅でプリントアウトしていった地図がペラリと一枚だけ。
それでも何とかセルビアの街中を歩き回れたのは、キリル文字を読めたからかもしれません。
10代の頃、ロシアの文化に強烈に魅了された私は、ロシア語を独学で勉強していました。
そのお陰で、セルビア語は全く分からないものの、ロシア語と同じくキリル文字が使われる言語なため、発音したり読んだりすることだけならできたのです。
スマホを持っていない分、事前にしっかりと地図を読んだ上で出かけましたし、キリル文字で表示された通りの名前などを問題なく読むことができたので、道に迷わずに済みました。



ありがとう、昔の自分よ。
ノヴィ・サド、愛すべき街
ノヴィ・サドに数日間滞在しましたが、食べ物に関しては、ホテルの食事を除いて、どこで食べてもとても満足できる味でした。
私が泊まったホテルはコンクール側から勧められた三つ星ホテルだったのですが、四つ星以上のところに宿泊したら色んな面で安心して過ごせていたかもしれません。
ちなみに、スーツケースは、ノヴィ・サドに着いてから二日後に無事に取り戻すことができました。
ホテルのフロントのお兄さんが手を叩いて喜んで、
「ヒャッホゥ!ラッキーだったね☆」
みたいなことを言ってくれましたが、



ラッキーじゃなくても、スーツケースは必ず手元に届いてほしいよ☆
まあ、紛失にならなかったのは、本当に良かったと思います。
届くまで気が気じゃなかったけど。


眼鏡の彼女と、ロストバゲージのことで言葉を交わしたのが思い出されます。
「こんなことがあったから、あなたがこの街を嫌いになってしまうのではないかと心配よ」
「大丈夫」私は答えました。「大好きだよ」
あのとき実は、本心からそう言ったわけではありませんでした。
眼鏡の彼女は何にも悪くないのに、あまりにも申し訳なさそうにしていたので、安心させたくて咄嗟に口走ってしまったのです。方便というやつです。
けれども、街中をただ歩いてみるだけでこれほどまでに異国情緒を感じることができ、かつ安全で穏やか、人々はいい意味で気楽で優しい、そんなこの地に、時が流れた今、改めて大きな魅力を感じずにはいられません。
だって、昔の旅の思い出をブログに綴っていこうと決めたときに、真っ先に頭の中に思い浮かんだのが、他でもないノヴィ・サドだったのだから。
15年という月日を経て、あの街に、もう一度心から言います。
「大好きだよ」と。