
先月(2025年5月)、ショート映画のサブスク SAMANSAで観た作品の中で、特に心に残った5作品を挙げていきます!




『08:27』
太陽の活動が停止した。太陽光が地球に届くまでの時間が8分27秒、つまり…。突如として訪れた終末のカオスを、幾人かに焦点を当てて描いた作品。
8分27秒後に否応なしに世界が闇に包まれる、というシュチュエーションは、やっぱり恐ろしい。人類、いや、全ての生命が死に絶えてしまうのだから。と、この作品のことを敬遠していました。
観たくないとずっと思っていたけれど、【公式】SAMANSAさん がInstagramに投稿していた飛行機の場面(上に貼ったものです)を目にして好奇心が勝ち、本編を観てしまったのです。
そしたら、もう、爆笑するやら感動するやら。特に件の飛行機のシーン、Instagramのほうでは少し端折られていたのですが、通して観ると爆笑度合い倍増でした。
この『8:27』は、ドイツ映画です。4年間ドイツに暮らしていたことのある私にとって、かの国の人々は、他のヨーロッパ諸国の人々に比べ群を抜いてカチッとしている、という印象があります。それなのに、この作品の例の場面でのパイロットと副操縦士と言ったら、カチッとどころか一方はやりたい放題、もう一方は慌てまくりで声が上擦りまくりではないですか。
「そうかそうか、この状況ならいくらドイツ人でもそうなるんだな、だって人生最後にして最大のパニックだもんな」と、妙に納得したのでした。
もちろん、面白いだけでは終わらないのがこの作品。観終わったあとは、たくさん、たくさん考えさせられます。
3年後に地球が滅亡する小説『終末のフール』(伊坂幸太郎 作)を思い出したりしました。
この映画の状況と、どちらが絶望的だろう。
もしも実際に終末が訪れたら、私はどうするのだろう。
深く考えれば考えるほど怖くなりそうなので、あまり深くは考えられなかったりして、それでも、また絶対にこの映画を観たくなるだろうし、観終わった後にまたあれやこれやと考えるのだろうな、と思わせてくれる作品でした。
『スコーパ』
二人の女性が、相手より豪華なお供え物をするべく、お墓を舞台にガチンコバトルを繰り広げる。
なんなのでしょうか、この破茶滅茶なお話は(褒め言葉)。
お墓の前でこんなに闘志をむき出しにする人がいるのでしょうか。あの手この手で相手を打ち負かそうとして、まるで格ゲーです。
とは言え、この映画、もちろんムチャクチャなままでは終わらないのです。ほろりとしてしまうストーリー展開で、ハートウォーミングコメディという形容がぴったりかもしれません。
題名の「スコーパ」とは、イタリアの伝統的なカードゲームのこと。二人の会話が英語からイタリアに変わるところがあり、どうしてここで切り替えたんだろう、とか深読みしてみたりするのも楽しかったです。
SAMANSA と出会うきっかけを作ってくれた『バップス・アンド・バンズ』、『愛しのイメルダ』にしてもそうなのですが、人生の先輩であるお姉様方はやっぱり最強だな、魅力的だな、とつくづく思うのでした。
『ルル』


少年には、自分を輝かせてくれる大好きな場所がある。家族で祝う誕生日、ある素敵なできごとが彼を待ち受けていた。
この映画の感想はと問われたら、「主人公のカメラ目線に惚れてしまう」この一言に尽きます。
海外に住んでいた時に色々な国の友人ができたのですが、目でものを語る人がとても多かったんです。普通にウインクとかしてくるんですよ。それを思い出しました。
あたたかいストーリー。『ルル』というタイトル。2分19秒という短さ。どれを取っても素敵な作品です。
短編映画専門のSAMANSAで配信されている映画の中でも特に短い部類に入ると思うので、まずは観てみて!と声を大にして言いたいです。
『モーリス』
モーリスは死ぬことにした。呼吸も歩行もできなくなる病に侵されたのだ。病名はALS、治療法はない。彼は、まず、子供達にそれを伝えることにした。
この作品に出会えて良かったです。
最後の最後まで自分を貫くってどういうことだろう。人生の終わり方を自ら決めるのって、どんな気持ちなんだろう。考えても考えても、当たり前かもしれませんが、答えは見つからないのです。
でも、納得できる考え方を探り当てたかった。だから私は、これまでに、尊厳死に関する動画や映画をいくつか観てきました。
そして、観るたびに、堪らない悲しい気持ちになっていました。
でも、この映画は違いました。
主人公モーリスの表情に、救われたような思いがしたのです。
尊厳死というテーマを扱っているにも関わらず、「救われた」と感じさせてくれたこの作品に出会うことができて、月並みな言い方しかできないけれど、ほんとうに良かったと思っています。
『スイート』
教育熱心な母。期待に応えようとする娘。一粒のチョコレートさえ許されない抑圧された生活をおくっていた少女は、ひとつの出会いをきっかけに、少しずつ変わってゆく。
主人公の女の子は、バレエを習っています。バレエがより上達するためにはリズム感をつけることが重要だ、と考えた女の子の母親は、彼女をピアノのレッスンに通わせることにして…というところから、物語は始まります。
私はピアノ指導を生業としており、子供の頃は長年バレエも習っていたため、ピアノのレッスンやバレエの発表会のシーンでは、(実際は、こうはならないんじゃないかな)と感じる点もいくつかありました。
けれども、そんなことなどは全てどうでも良くなるくらい、訴えかけてくるものが、この映画にはありました。
少女がこらえきれずに泣いてしまう場面があります。魂の叫びが聞こえてくるような、あまりにも悲しい慟哭でした。
それほどまでにつらい思いをしているのは母親が原因なのに、少女は、お母さんのことが大好きなのです。
親という生き物は、子供にあんな泣き方をさせては絶対にならない。そう思いました。
親子の関係はどうして拗れていってしまうのか。子供が幸せに生きていくには何が必要なのか。そんな数々の疑問を投げかけてくる作品ですが、不思議と爽やかな後味を感じることができました。
おわりに
先月観た作品の、TOP5を挙げさせていただきました。
制作国は以下の通りでした。
『8:27』 ドイツ
『ルル』 フランス
『スコーパ』 オーストラリア
『モーリス』 カナダ
『スイート』 日本



先々月のTOP5 の制作国とは全く被っていません。いろんな国の映画と出会う愉しみを感じています!
『8:27』『スコーパ』『モーリス』は、テーマは全く違えど「死」に関連した作品。
『ルル』『スイート』は、主人公たちの好きなことや好きなもの、やりたいことにフォーカスした作品。
「死」について考えることって、すなわち「どう生き抜くか」に結びついてくるし、どう生きていきたいか考えると、結局は好きなこと、やりたいことをするのが一番だ、と結論が出る。
その時々で魅かれた映画を観てきたつもりですが、実は、観たいと感じた作品たちは、自分の中では何となく繋がっていたのかな。
ふと、そんなことにまで考えを巡らせたりなんかして、やっぱり映画っておもしろいな、と思うのでした。

