ふと、壁にかかったカレンダーに目をやると、6月10日の欄に
時の記念日
と印字されているではありませんか。
なんとも素敵で、詩的にも感じられるネーミング。惹かれるものがあります。
この日がなぜそう呼ばれるのか興味が沸いたので調べてみました。
1960年の6月10日「時の記念日」に開館したという明石市立天文科学館のサイトのこちらのページの説明が、とても詳しく分かりやすかったです。
ところで、時と言えば時計、時計と言えば…、私の頭の中にはフランスのある作曲家の顔が浮かびます。
モーリス・ラヴェル。
彼は、「スイスの時計職人」と評されるほど、緻密な音楽づくりをする作曲家だったのです。

「スイスの時計職人」と呼ばれた作曲家、ラヴェル
モーリス・ラヴェル Maurice Ravel (1875−1937)
スイス人で発動機工学の研究者だった父、バスク地方出身の母のもと、スペインとの国境に近いフランス領バスク地方シブールに生まれる。
パリ音楽院に学び、〈ローマ賞〉のコンクールで大賞を獲得すべく数回に渡り参加を繰り返すが、ついに第一等に選出されることはなかった。すぐれた音楽家として注目を集めていたラヴェルの落選は波紋を呼び、音楽院に革命をも巻き起こすほどの一大事となった。
第1次世界大戦時には自動車輸送隊の運転手として、危険な任務も全うした。
晩年は神経系の病気にかかり、1937年に脳外科手術を受けるも捗々しくなく、この世を去った。
彼の音楽は、古典的な枠の中にも独創性がさく列している。その出自に関連してか、スペインの影響が色濃い作品も数多い。
ピアノ作品『高雅で感傷的なワルツ』の思い出
ラヴェルの遺した傑作は沢山ありますが、私が折に触れて聴きたくなるのが、
『高雅で感傷的なワルツ』。
音楽高校に通っていた頃に、この曲と出会いました。
高名なフランス人の教授が学校に公開レッスンをしに来たので聴講しに行き、そこで初めて耳にしたのが、この作品です。
時折り、教授が弾いてみせてくれたのですが、その音楽はまさに、瀟洒にして軽妙洒脱。エスプリが効いているとはこういうことを言うのか、と新鮮な驚きに包まれました。
しかも、彼の音は軽やかなのに重みがあるのです。この絶妙な脱力感は何なのだろう、と唸ってしまったのでした。
◇
すばらしい演奏のお陰もあって、忘れがたい曲となったこの作品に、またもや心を奪われることになったのは、ドイツの音大に学んでいた時のこと。
日本人の学生のリハーサルを聴くことになったのですが、(同じ日本人がラヴェルの音楽をこのように魅力的に奏でることができるのか…)と思わず嫉妬の念を抱く、そんな演奏でした。
鏡を思わせる音楽。と言っても、ラヴェルのピアノ作品《鏡》のことではなく、概念としての鏡でもありません。
質感がまるで「鏡」ように感じられる、硬質で曇りなき美音が、次々と指先から溢れ出るのでした。
加えて、音楽の〈静〉の部分の妙、というものも、彼女の演奏から味合わせてもらいました。
私はそれまで、ジャーン!と派手に終わる曲を弾く、または聴くことを好んでいましたが、余韻を残しつつ音が少なくなっていくこの曲の締めくくり方を、「うわっ。おしゃれ!」と感じたのです。

『高雅で感傷的なワルツ』のおすすめ名録音
最近好んで聴いている名録音は、こちらです。
セシル・ウーセ (ピアノ)
【ラヴェル:ピアノ名曲集(1990年発売)】より

名ピアニストによる録音は数知れず、でも、その中でもクリアな音質のものが聴きたい!
だってこの曲が鏡のように美しいことを知ってるから…
と、色々な録音を聴いていた時に、サブスクで辿り着いたのでした。
第1曲は、誤解を恐れずに言うなら「どんちゃん騒ぎ」風になりがちなのですが、セシル・ウーセの音楽の、なんとシャープで洗練されていること。
エピローグの美しさといったら、「幻みたい」とか「夢みたい」としか言いようがありません。もう本当に、幻や夢を音にしたらこうなるだろうな、という感じなのです。
全体的に感動するのは、ピアノという鍵盤楽器は一度音を鳴らしたら音が減衰していくはずなのに、なぜか彼女の演奏は、音がうねりを伴っているかの如く生き生きと聴こえるということです。
おわりに
「スイスの時計職人」ラヴェルのことと、彼の作品で私が最も聴きたくなる一曲について書きました。
ラヴェルのことを「スイスの時計職人」と評したのは、ロシアの作曲家、ストラヴィンスキー(1882-1971)。私は、彼の作品では、ヴァイオリンとピアノのための『イタリア組曲』が大好きです。明るく伸びやかな旋律に彩られた、ヴァイオリンという楽器の魅力を堪能できる名曲です。
そして、完全に余談ですが、



私、時計が大好きなんですよ!!!
「時の記念日」という名前に反応したのも、おそらく時計好きの血が騒いだからなのでしょう。
今、愛用しているのは、アンティークのチューダーです。



いやはや!かわいいんですよ私の時計、しかも着けてみて初めて実感するようになったのですが、夏にぴったりなんです、つまり今の時期によく合うので、身につけていて楽しいの何の…、
語り出すと止まらなくなるので、その話はまたいつか、ぜひ投稿したいと思います。